ロールプレイングの話

部活の2つ上だった小山先輩が初めて帰ってきた夏、
先輩と現役部員で集まった帰りに、
夜遅いからとその日いた唯一の女子部員だった私を
先輩は一緒に自転車で家まで送ってくれました。

 

世間話をしていた流れもあって、最後の角に差し掛かる少し前に
「私、先輩とか後輩とは仲良くできるんですけど、
同級生の友達はあんまりいないんですよね」と自嘲気味に私は言いました。

 

遠回しに、私たちの親密さを確認したい意味もありました。

 

「俺もそういうところあるし気持ちは分かるんだけど、
先輩はかわいがってくれるし後輩は気を遣うのが普通だから
それって当たり前じゃないかと思うんだよね」

 

先輩はあくまで、平素からの考えを述べたふうで、
敢えて言うなら自戒の気持ちはあったのかもしれませんが
私を責めるつもりはなさそうでした。
それでも私はなんと返事をして良いのか分かりませんでした。

 

そのあと、家の前についても長いこと話していたのは覚えていて、
確かに青春の1ページに数えている出来事ではあるのですが
その部分だけは6年経っても突き刺さっているのです。

 

いまだに、先輩・後輩よりも同学年の友人と接するのに苦手意識をもっています。
その場で統率を取るのか、険悪な場を和ませるべきなのか、
多少ふざけても許されるのか、黙っていることを求められているのか、
私に与えられている役割は何なのか、見極めるのが難しい。

 

恐らく見極めるものではないのでしょう。
作り出した役割を好かれたり嫌われたりしながら
人間関係そのものが変化していくのです。

 

私はずっと役割を作り出すことができないまま育ってきてしまったのだなと思います。
でも見極めるのが簡単な役割は人よりもうまくできる、
そう思って二十年にわたって大人の前ではいい子をやってきました。
職場では姉御肌のふりができるし、
恋人の前では「手の掛からない彼女」でいることができます。

 

作り出すことは苦手ですが、でしゃばって作らなければ
嫌われないことはよく知っていたのです。

 

 

それなのに、演じ続けることの息苦しさに気付いてしまって、
でも自由になるということがどういうことかも分からず
求められた役割を飛び出すことの恐怖に怯えています。